シェアリングエコノミーとその価値
昨年、アメリカ・ポートランドで開催されたValue Summit 2019(アメリカVE国際大会)に参加してきたことは、本ブログでも紹介させていただきました。
その時に、シェア電動スクーターを試してきたことも同様にブログに書きました。
そして先月、リスボンでも電動スクーターのおかげで、かなり移動の負担が減りました。
ただ”乗ってきた”、”楽しかった!”だけでは面白くもないので、シェアリングエコノミーというものと、その価値(バリュー)について考えてみました。
「シェアリングエコノミー」と広い範囲で考察する前に、今回実際に試した「シェア電動スクーター」を対象に考えてみます。
[日本での現状]
日本では都内の一部でシェアサイクルが導入されています。
しかし、電動スクーターは、一切サービス展開されていません。
日本の道交法との兼ね合いで導入の障壁が高いのだと思います。
セグウェイが一般道を走れないのと同様ですね。
[シェア電動スクーターの価値について]
提供側と利用者側の視点で機能(ファンクション)が異なってくるため、まずは利用者側の視点で考えてみました。
1.シェア電動スクーターの機能(ファンクション)
シェア電動スクーターというサービスが持つ基本的な機能はなんでしょう。
《手軽な移動手段を得る》・・・時速25kmほど出て手元のアクセル・ブレーキのみで自走するため、ペダルをこいだりする必要もありません。
《自由に乗降地を決める》・・・厳密には自由に決められないのですが
《簡易な利用手続きを使う》・・・アプリでQRコードを読み取るだけ
《移動負担を減らす》・・・海外では移動手段がかなり不自由するので
《移動費用を下げる》・・・タクシー、電車などよりも、
《爽快感を得る》・・・気持ち良いです、その反面怖さもありますが。。。
といったことが挙げられます。
3.利用者の満足度の変化について
“価値”を考える際に、シェア電動スクーター利用者の利用段階を踏まえる必要があります。
なぜならば、価値は、投入したリソースに対して得られた効果・効用・満足度などで測られるからです。
この利用者が得られる満足度は、利用する前、利用中、利用後で変化します。
その判断の指標もそれぞれの場面で異なります。
(1)利用前
どれだけ近くにスクーターが置いてあるかで、最初の印象が変わります。
すぐ目の前の道に置いてあると、ラッキー!とほとんど歩くことなく移動を始められます。
これが、”たったの”ではありますが、数分歩いたり、マップで示された場所で見つからない、となると、途端に不満足な気持ちが高まってきます。
《手軽な移動手段を得る》、《移動負担を減らす》というファンクションの達成度合いが下がってしまうためです。
(2)利用中
少々の上り道もスイスイですし、とにかく爽快感があります。
リスボンでは、ちょっとした小道にも観光客が溢れていて、スイスイとまでいかない場面も多かったのですが。
乗っている間は、その体験から得られる快適さや便利さが、そのまま価値に直結してきます。
料金を意識する場面が無いので。
《移動負担を減らす》、《爽快感を得る》といったファンクションの達成が重視される場面だからです。
(3)利用後
乗り終えた際には、”Lock”をして”End Ride”となります。この際に、移動距離、料金などが表示されます。
結構移動したなぁ〜・しかも安い!電車・バスよりも安い!となると満足感も高くなり、得られる(感じる)価値も高くなります。
しかし、逆に、これしか移動してないのにこんなに料金かかるの?なんてこともあります。
実は、最中に気になるものがあって立ち止まっていたり、ちょっとした買い物をしていることがあるからなのですが。
最終的には、移動した距離(身体的負担の軽減度合い)と料金のみを見て価値判断してしまいます。
この点で、最後のEnd Ride時に、使用者にどういう情報の見せ方をするかで、感じさせる価値に大きく変化を与えられそうです。
《自由に乗降地を決める》、《移動負担を減らす》、《移動費用を下げる》というファンクションが判断の指標になるからです。
2.利用者の満足度に与える要因
(1) 空きスクーターの場所
特にビルの多い場所でのスクーターの置かれているを特定しづらいのです。Birdを使った時はかなり正確だったのですが、ポートランドでLIMEを使う際には、アプリのマップの場所に行ってもスクーターが無いことが多くありました。
リスボンでも、マップ上とは100m近く離れていたりして、なかなか見つからないことも。
降車の際の置き場所、置き方のルールはあるのですが、守っている人が少ないように感じました。
もしかしたら、アプリやサービスに改善の余地があるのかもしれません。技術的な制約があるのかもしれません。
(2) 危険性
時速25kmはかなりのスピードです。
Birdではヘルメット着用と注意書きされてましたが、LIMEには特にそのような表記はありませんでした。
いずれのサービスにしろ、ヘルメットを着用している人を見かけたことはありませんが。
旅行先にヘルメットなんて持って行きませんよね。
しかし、先程のようなスピードが出ることや、車道を走っていると、いつ事故に遭ってもおかしくないと感じることも多く、爽快感はあるものの、常に恐怖感も感じます。
そして、自転車のように大きなタイヤではないので、特に路面のくぼみや段差を通る際は、かなり怖いです。
また、海外ならばそれほどひどい人混みは少ないので良いのですが、都内のように人の多い場所では乗り手も歩行者にも危険が増しそうです。
リスボンでは、雨で濡れた石畳では、スリップしまくって本当に危険を感じました。リスボンの場合、路面電車も多く走ってるため、その線路もとても怖かったです。
(3) アプリからの操作が必須
利用はスマホアプリからの操作が前提となっています。
スマホだけで利用できるから楽。
しかしその反面、スマホを持っていない人、スマホ操作に慣れていない人にとっては、ハードルの高さを感じるかもしれません。
4.シェア電動スクーターの価値
私にとっては、抜群の価値を得られる手段でした。
旅先で移動する手段は、電車・バス・タクシー・車、そして徒歩になります。
徒歩以外の手段を使うほどの距離ではないけれど、買い物をしたり、食事に出かけたりといった場面が多くなる中で、電動スクーターの機動性と手軽さ、徒歩で歩き回る必要がない手段というのは、少ないコストで多くの機能(ファンクション)を達成することができる、大きな価値ある手段だと感じています。
5.シェアリングエコノミーについて
特にインターネット、スマホといった技術の浸透によって、あらゆるモノコトをシェアする環境が整ってきたのが、シェアリングエコノミーの広がりにつながっています。
モノコトに対する価値の考え方が変わってきたとも思います。
“所有する”ということが価値であった時代から、”所有する”ことがリスクを含んでいる価値であるという時代へと移ってきました。
時代・環境とともに、価値を判断する基準も変化するということです。
シェアリングエコノミーというビジネスモデルの登場によって、「所有することの価値」と「シェアすることの価値」、価値を得るための選択肢が増えてきました。
最近では急に「サブスクリプション」という方式を多く目にするようになってきました。
一括で購入金額を支払って所有するのではなく、一定期間(毎月など)の利用権を得る仕組みです。
この「サブスクリプション」も、IT技術・インターネット技術の進歩・浸透があったからこそですが、これによって商品・サービスを所有しなくても、これまでと同じような価値を得られる仕組みです。
同じではなく、サブスクリプションだからこその付加価値さえ得られるサービスも生まれてきました。
(なんでもかんでも「サブスク」と呼ばれている現状もいかがなものかと感じることもありますが)